考えすぎてしまうあなたに|玄奘三蔵の“不東”に学ぶ、決める力と手放す力

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決められない時代に、静けさを選ぶ──玄奘三蔵と「不東」という覚悟

ある日ふらりと訪れた奈良・薬師寺。
その境内に、かの玄奘三蔵の遺骨が祀られています。

子どもの頃、テレビで見た『西遊記』の三蔵法師。昭和世代の私にとって、西遊記といえば、「モンキーマジック」で、その主題歌が流れる中、孫悟空たちとともに天竺を目指して旅する三蔵法師──ですが、
実は、「玄奘三蔵」という名の実在の高僧だったこと、ご存知でしたか?


お恥ずかしながらわたしは、孫悟空と同じで、架空の人物だと思っていたので、薬師寺でその遺骨が祀られていると知った時、かなり衝撃を受けました。

YouTubeで眺めるインドの砂漠の景色より、この薬師寺の境内の静謐さが、なぜか私にはもっとリアルに響きました。



思えば、当時の旅は命がけです。玄奘三蔵は、あの広大な砂漠を歩きぬき、乗り物も、今のような便利な道具もない中、盗賊に囲まれながらも、帰らないと決めた──


「不東(ふとう)」の覚悟
“離れる、失う、戻らない…”

現代の私たちにとって「不東」の覚悟とは、命ではなく、「心を選び、守る決意」のことかもしれません。

情報が溢れる時代に、「決められない私たち」

スマホを開けば、あらゆる情報が押し寄せる現代。
何を食べるか、どこに行くか、誰と会うか──


私たちは、1日に数千回も「小さな決断」を繰り返しています。

「もっと良い選択があるかも」
「失敗したらどうしよう」
そんな思考が、知らず知らず自分を動けなくさせていることはないですか?

私自身も、ずっとそうでした。
ちょっとした選択にも時間がかかり、迷い、立ち止まる。
よく見られたい、失望させたくない、そんな意識がとうしてもはたらき、
そして、そんな自分に軽い自己嫌悪。

でも、薬師寺で出会った玄奘三蔵の「不東」の覚悟に触れたとき、ふと気づいたのです。

「決めること」は、何かを選ぶこと以上に、他のすべてを“手放す”ことなのだと。

香炉に灯る、“決意の香り”

そんな玄奘三蔵ですが、東京国立博物館に、「玄奘三蔵像」として、重要文化財の肖像画が収蔵されています。

画像

e国宝 – 玄奘三蔵像文化財高精細画像公開システム(「e国宝」)emuseum.nich.go.jp

上の写真に赤い丸を付けていますが、それが香炉の部分になります。

香炉でお香を焚く理由は、ただ仏に捧げる儀礼ではありません。
清め、道を定め、覚悟を灯す。

当時のお香は現在のお焼香のように、燃やして使用していたようですので、お香を焚きながら、邪気を払い、命がけの旅をしていたのではないかと思われます。「香り」は、歩き続ける心の背中を守り、そっと支えていたのです。

小さな「不東」は、あなたにもできる

薬師寺での説明
「不東」
玄奘三蔵の、経典を手に入れるまでは東(中国)へは帰らないという決意を表す言葉です。

でも、私たちが今日できる「不東」は、もっと小さくていい。

今日はもうスマホを閉じて、早めに眠る

明日は泣いてもいい、と自分に許す

今日は、休むと決める

静けさを選ぶための、小さな「戻らない」。


それだけでも、思考過多の霧の中に、一本の道が見えてきます。

“決められる人”になる前に、まず「手放す」

決められない人は、真面目で、完璧な選択を探しすぎているような気がしますが。


でも、決断力とは「考え抜く力」ではなく、「考えすぎない力」なのかもしれません。

香りに包まれ、坐禅や瞑想に身を置くことで、思考の手綱がふっと緩み、自分の中にある静けさとつながる。

そのとき、ようやく「これでいこう」という声が聞こえるのです。

香りとともに「思考を手放す」ために

私が日常に取り入れているのは、こんな香りの習慣です。

・炉で温める 練香や茶道でも使われる割の(小さくカットされた)白檀を焚いてみる。

・ 塗香(少し辛めに調香したもの)を手にすり込む

お線香の煙が苦手、喉が痛くなる方は、特におすすめです。

香りは、脳の「扁桃体」や「海馬」に直接作用し、考えすぎる脳に“余白”をつくってくれます。

呼吸が浅くなったとき、不安や焦りが強いときこそ、香りの力を借りて、「思考をお休みさせる時間」をもってみてください。

決めることは、自由になること

「不東」とは、もう戻らないと決めた人の言葉。


でも、それは同時に、他の迷いから自由になる選択でもある。

だからこそ、
迷わない人を目指すのではなく、
迷っても、進める人でありたいのです。

がんばってきた一日の終わりに、香りと静けさに身を委ねながら、
「今のままでいい」と、自分に小さなOKを出してみてください。

それが、現代の「不東」なのかもしれません。

※この記事は、noteにて先行公開した内容を加筆・再構成したものです。
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